Koji Yakusho
映画監督・俳優 役所 広司

俳優の視線と監督の目

日本が誇る名俳優が初めてメガホンをとった『ガマの油』

(2010年1月8日記事)

 

名実ともに日本を代表する俳優のひとり、役所広司さん。”役どころが広くなるように“との思いでつけられたその芸名の通り、国内はもちろん、ハリウッド映画にも出演、世界中の注目を集める名優だ。その役所さんが、レッドカーペットを踏んだ『バベル』(06)以来、2度目のトロント訪問。今回は俳優としてだけでなく、映画監督としての来加となった。

「映画、観てくれた? どうだった?」

こちらがインタビューを始める前に、笑顔を見せながら逆に質問した役所さん。初監督作品へかけた意欲が伺える。

今作『ガマの油』では、監督を務めただけでなく、意識不明の息子に代わって彼の携帯電話に出てしまった父親の拓郎役で出演。物語は、拓郎が携帯電話越しについた小さな嘘をきっかけに、ガマの油売りの幻想を交えながら進んでいくファンタジーだ。

「漠然と、”監督“ということを一生に一度でもできれば幸せ、とは思っていたんです。今回は、『映画を撮ろうよ』っていう人が集まっていたところに、最初は俳優として参加しようと思って行ったのですが、監督もやってみないか、と持ちかけられて…。企画がそのまま進むとは思っていなかった節もあったのでOKしたら、意外とどんどん進んでいってしまってねぇ(笑)。その過程で、『俺がこの作品の監督なんだな』っていう実感が湧いていく感じでしたね。

(役どころの『拓郎』は)全体の中で一番ダメな大人、っていうんですかね。(共演の役者さんたちには)素晴らしい人材に恵まれました。『しょうがない、助けてやるか』っていうことで出演していただいたようです(笑)」

息子の拓也役には、実際に「こんな息子がいたらいいなぁ」と思うと役所さんが太鼓判を押す俳優の瑛太さん。

「映画の中で彼は死んでしまうんですが、亡くなっても、みんなが彼を中心に、その死というものを受け止めていくという役。姿が見えなくても、スクリーンの中で浮遊しているっていうんですかね。そういう役だと思います。瑛太さんに会った瞬間、この役にぴったりだ、と思いましたね。

反対に拓也の友達のサブロー役の俳優探しには苦労したんですよ。体が大きくて、どこかナイーブで、まあ、少年院に入っていたという設定もあって、どうかすると凶暴な一面も持っているかも知れないという風貌の人はなかなかいなくて。タレント事務所に問い合わせて写真を送ってもらっても、みんな細くてスマートでね、いわゆる”イケメン“は沢山いるんですが、ああいう(サブロー)タイプっていうのはいないんですよね。

結果として、K1ファイターの澤屋敷純一くんにお願いすることになりました。僕は彼のデビューを知っていて、凄くいい選手だと思っていましたし…。プロデューサーが彼のインタビューのビデオを持ってきてくれたんですよ。それがいい感じでね。役者じゃないからやらないかな、とは思ったんですが、一応、オファーしてみてくださいと(プロデューサーに頼みました)。そうしたら、興味があると返事をもらえたので会って、台本を読んでもらいました。本当に素直でね…。こんな感じにいってみようか、って言うと、そのリアクションがとっても素直でよかったんですよね」

 

作品中のキーパーソン、ガマの油売りには益岡徹さんを起用。

「彼とは若い時からの親友です。1本の焼き鳥を2人で分け合って(笑)、食べた仲なんです。僕は若い時から益岡さんっていう俳優さんのおもしろさを知っていたんで、ああいうのをやらせたら、彼は適任だと思いました。まあ、彼こそ本当に友情出演です」

そして役所さんはこう続ける。

「僕は今作は俳優としても出ていますけど、監督という仕事を経験させてもらって本当にたくさんのことを学ばせていただいたと思います。こういう映画祭もね、俳優として来るのと監督として来るのとは全然違いますね(苦笑)。映画祭っていうのは、だいたい監督が中心で、俳優はおまけ…華を添える、といったほうがいいですかね(笑)。まあ、くっついて来て楽しむ感じですが、監督として来ると、この映画をどうやって楽しんでいただけるのか、という期待と不安が非常にありますね。

監督っていろいろ厳しい仕事ですけど、もう一度何か、いいものに出会ったら、またチャレンジしてみたいな、とは思います」

日本に戻れば、また俳優として忙しい毎日が待っている役所さん。この経験が俳優としての新しい目を開かせてくれたという。

「(監督業は)知らないことだらけでしたからねぇ。今、作品が出来上がってまた俳優としての仕事に戻ったんですが、新鮮な気持ちでやっています。また違う視線というか、俳優として見えているものと、裏方から見えているものは違う、それが分かって、今は新鮮な気持ちで、初心に戻ってやってます。

裏方、つまりスタッフが時間をかけてああでもない、こうでもない、とやって、最後に俳優に出番が回ってくる。楽しみにしているんですよね、スタッフは…。『どんな事をやってくれるのかな』ってね。決して上手にやる必要はないんですよ。でも、作品を作る仲間として情熱を持ってやってくれることをもの凄く期待しているんです。それが分かって、今まで自分はどのくらい一生懸命やっていたかなと、監督をやりながら思っていました。

僕はね、自分が俳優として出ている作品が出来上がってもあまり見ないんですよ。だから今回は、人生で一番自分のお芝居を見たんじゃないでしょうかね。監督として、まぁ、役所さんは(笑)、『役所広司』という俳優さんは、まだまだ修行していただきたいと思いますね」。

(インタビュー/西尾 裕美)

Biography

やくしょ こうじ

1956年生まれ。仲代達矢の舞台に感銘を受け仲代の主宰する「無名塾」へ入塾、俳優の道へ。その後、84年のNHK新大型時代劇『宮本武蔵』で武蔵を演じ注目を集める。映画では、伊丹十三監督『タンポポ』、周防正行監督『Shall we ダンス?』、森田芳光監督『失楽園』、今村昌平監督『うなぎ』など、多くの作品に出演、数々の男優賞を受賞する。05年の『SAYURI』(ロブ・マーシャル監督)、翌年の『バベル』(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督)、07年『シルク』(フランソワ・ジラール監督)といった海外作品にも出演、名実ともに日本を代表する俳優として知られる。『ガマの油』(09)は初監督作品。
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http://gama-movie.com

 
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