「おっ、今のはもしや…」
セントローレンス河を眺めていると、表面をかすめる黒い影。ここはホエール・ウォッチングのメッカ、ケベック州タドゥサック市だ。セントローレンス河とサグネ川に面する人口900人程度のこの小さな町は、ツアーボートに乗らずとも、水面で優雅に戯れるクジラの姿が観察できることで知られている。
間近でのクジラ遭遇に興奮!
ミンククジラ、ザトウクジラ、ナガスクジラ、シロナガスクジラなど13種ものクジラのほか、ハイイロアザラシ、シロイルカ(ベルーガ)などが生息し、海洋生物研究も盛んに行われている。数社が運行しているホエール・ウォッチング・ツアーでは、各ボートに同乗しているガイドが臨場感たっぷりに海の神秘とそこに棲む生物たちについて説明してくれる。そして、ホゥーっと、どこからともなく汽笛のような音が聞こえると、次の瞬間には水面で旋回するクジラの丸い背が現れる。背びれが見られるのは旋回が終わる瞬間だ。カメラを手にした観光客たちが、いっせいにシャッターを切る。時にはかなり近くに出現することもあり、ボートが持ち上げられるのではないかと不安になったりもするが、そこは熟練ガイドがうまく誘導してくれる。
タドゥサック市は、現存する北米最古のフレンチ・セトルメントであり、かつては毛皮貿易の本拠地だった。サグネ川には北米で唯一のフィヨルドがあり、セントローレンス河とサグネ川が出会うタドゥサック湾は某サイトで「世界で最も美しい30の湾」のひとつに選ばれている。
キャンプ場からもホエール・ウォッチング
町のランドマーク的存在であるタドゥサック・ホテルは、その真っ赤な屋根が印象的だ。1860年代の創業以降、おもにアメリカ合衆国の富裕層に愛されてきたが、1980年代の改築に伴い、カナダ国内でもその存在を知られるようになった。毎年30万人もの観光客が訪れるため、小さい町ながら宿泊施設は豊富だ。地元のレストランではおいしいシーフードが味わえる。
ぜひおすすめしたいのは、クルーズ発着所から遠くない、小高い丘の上にあるキャンプ場。アルゴンキンなど、大自然のなかのキャンプ場に比べると個々のキャンプサイトは狭いが、セントローレンス河を見下ろすそのロケーションが最高だ。シャワーなどの設備も整っており、清潔で使い勝手もいい。入り組んだ湾を眺めていると、遠目だが時々黒いものが水面をよぎるのが見える。これほどロマンチックなキャンプ場は、カナダ広しといえどもなかなかないだろう。月明かりの下、クジラたちの歌声が聞こえてきそうだ。
〈文/Yoko Morgenstern〉
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