叩きつけるような激しい旋律で迫ったかと思えば、しなやかな優しい音色で語る。津軽三味線がさまざまな顔を持つ楽器であることに気付く。ハーバーフロントセンターのエンウェーブシアターを埋め尽くした観衆は、食い入るように舞台上で演奏する2人の青年を見つめる…。先月25日に行われた、Small
World Musicが主催する初の『吉田兄弟』トロントライブだ。
「とにかくベストを出せるような準備(時差、楽屋、音響)ができるかです(兄/良一郎)」「僕らは普段通りの演奏をするだけなので、どんな反応がくるのか楽しみです(弟/健一)」
カナダ初ライブを前にこう語るお二人に、今回は様々な質問をぶつけた。
彼らと三味線との出会いは、父親抜きには語れない。お父様は、何か習い事がしたいという2人に三味線を勧めたという。しかし、エレクトーンなどの習い事をしていた周囲の友達に、三味線を習っている…と言うのは恥ずかしかった時期もあるという。また、健一さんは学生の時はサッカーや陸上などの部活動へも参加していたそう。そして驚いたことに良一郎さんは、三味線の練習より熱中した事があるという。
「高校生の時に陸上部に入り長距離にハマりました。三味線の練習より走ってましたね。よく父に怒られてました。陸上で食っていくのか!?と」
しかし、三味線を途中で投げ出すことはなかった。
「(辞めなかったのは)ひと言でいうと父の熱意です。小学生の頃はやっぱりやめたいと思っていましたが、父に言い出せなかったですね…。もうひとつの理由は中学に入るぐらいに民謡三味線から津軽三味線(師匠)に変わったことです。ここが大きなポイントだと思います(良一郎)」
民謡三味線から津軽三味線へ…。これもまたお父様の勧めだったという。
「最終的に僕たちにやらせたかったのが津軽三味線だったんです(健一)」
津軽三味線という楽器は、他の三味線より棹が太く、胴が大きい。その重量感に加え、弦を弾いて演奏するというよりも叩きながら弾くような演奏法のため、その音にはよりダイナミックな印象を受けるだろう。
「(演奏法が通常の三味線と)大きく違うのは右手の撥が左右に大きく動き、撥も大きく上に上げます。よって曲、音にメリハリがつきます。左手は通常の三味線よりもはるかに細かく動きます。津軽三味線の五大民謡はほとんど譜面がなく、決まりがありません。こんなフレーズ、こんなリズム、(という感覚)で成り立っています、なので自由です。津軽五大民謡は時代と共に変化している民謡だと僕は感じています。ゆえに面白いんです。伝統を作っていけるのです(良一郎)」
津軽三味線の五大民謡とは、「津軽じょんから節」「津軽よされ節」「津軽小原節」「津軽あいや節」「津軽三下がり」の5曲。これらの演奏は、基本的に即興で行う。演奏者の腕の見せどころであるが、同時に非常に高度な音楽性とテクニックが要求されるのではないだろうか? そして、個人の趣向が反映される中でデュオとしてまとめ上げるのは大変だろう。
「やはりもともとソロ楽器なので、ふたりでピッタリあわせるというのはとても難しいことだと思います。ただ、僕らは同じ環境で同じ師匠から習い、兄弟であるということもあり、それほど難しくはなかったと思っています」と、健一さんは語る。今回のコンサートでも、良一郎さんのじょんがら節は健一さんのじょんがらとは全く異なる。そして2人の個性が交じり合って『吉田兄弟』の音になっていった。
吉田兄弟の楽曲は、津軽三味線の知名度を全国レベルに押し上げた高橋竹山さんの楽曲とは全く異なる印象を与える。実際に舞台上で弾いている姿、音はまるでジミー・ヘンドリックス。オリジナル曲にある心地よいグルーブ感は、彼らがロックやジャズなど西洋発信の音楽に触れてきた年代だからだろうか。そんな質問を投げかけてみた。
「高橋竹山先生はまさしく津軽、青森です! 僕たちには到底、真似ができません。僕たちは、どちらかと言うと津軽三味線というより最近は大きなくくりで日本音楽をやっている感じがします。吉田兄弟は北海道が生んでくれた。北海道の心の広さが曲作りの自由性に繋がっていると思います(良一郎)」「それはその通りだと思います。僕らの年代だからこそ出せる音色だったり、作れる曲だったり、そういったものがあると思います(健一)」
吉田兄弟だから作ることが出来る曲、彼らでなくては生まれなかった曲が今、日本だけでなく、海外からも高い評価を受けている。
「(海外へ)日本にはこんなすばらしい楽器があると示したい。ここ最近になってやっと曲目を含めて準備ができた感じがしています」と良一郎さんは言う。
「(99年のデビューから、もう10年)本当に月日が過ぎるのが早かったですね。あまりにも早くて吉田兄弟という名前についていけませんでした。最近ですよ、いろんな意味で追いついたのは。ここ1年かな? 逆に自分的にはこれからだと思います。自分のこと、津軽三味線のことが見えてきました。僕はこの日本のすばらしさを、より多くの人に感じてもらいたいです(良一郎)」「この10年はとにかくあっというまでした。三味線の可能性を追求することはこれからも続けて行くでしょう。そして、あらゆるエンターテインメントに取り上げられるような楽曲をつくっていきたいと思っています(健一)」
ソロだから出せる個性、デュオだから生まれるハーモニー、そして常に追求していく真摯な姿。そこに日本の伝統の美を見る人は多いだろう。
〈インタビュー/西尾 裕美〉
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